教員の研究

教員インタビュー

マーケティング論担当 張婧先生

張婧先生

Q 研究テーマを紹介いただけますか?

「サービス」をキーワードとするマーケティング研究を行っています。「サービス」といったら、ただでもらえるものや形のない製品を思い浮かべるかも知れません。近年、マーケティング分野では、サービスを人々(顧客)が自身もしくは他者の便益(benefit)のために知識と能力を適用すること、というふうに捉える考え方が広がっています。私の研究は、このような考え方に基づいており、すべての企業を顧客に資源を提供するサービス企業と認識しています。また、市場から入手した製品やサービス活動を利用して価値(value)を創造する生活者としての顧客の側面を重視しています。

具体的にいうと、「サービス提供者としての企業がどのようにサービスの受け手である顧客の価値創造を理解し、マーケティング活動としてそれをサポートするのか」を解明することは私の研究課題です。

Q なぜそのような研究テーマに関心をもたれたのですか?

大学院時代の指導教授からは、研究は社会に貢献するため、人の役に立つために行わなければならないと教わりました。私もこのことに深く共感しています。マーケティング研究は、従来の効率的なマネジメント手法の開発だけでなく、消費者の福祉(well-being)にも貢献できるものだと、私は常々考えています。ですので、当初から、顧客を外部の不確実性要素として捉えて、マネジメントしようとするマーケティング課題ではなく、企業と顧客の「関係性」に関心を持っていました。文献を読みあさっているうちに、サービス中心の考え方(Service-Dominant logic, Service logic)の論文に出会い、その理念が心に響きました。つまり、価値を決定するのはモノを生産・提供する企業ではなく、それを消費・利用する顧客(消費者)であるということです。顧客は様々な文脈の中で主観的に価値を判断します。企業の役割は、顧客の価値創造に資源を提供したり、提案したりすることです。このような視点に基づいて、企業と顧客の関係を説明するマーケティング理論を精緻化することで、自分の理想的なマーケティング研究に近づくことができると思いました。特に、企業と顧客が共同で価値を創出する研究(価値共創研究)に力を入れています。

Q 具体的には、どのように研究を進めていますか。

マーケティング研究の大きな使命は、マーケティングの科学や実務における既存手法の発展を促進させ、学問と実践の架け橋としての役割を果たすことであるとされています。これを研究活動の基準として、理論的な研究に加えて、特定の研究課題に応じて、マーケティング現場での調査研究も行っています。

具体的には、企業を対象とする聞き取り調査や観察などの手法を活用しています。また、顧客を対象とする調査手法として、グループインタビュー調査や深層インタビュー調査、質問紙調査などがあります。つまり、マーケティング現場で実データを収集し、それを理論研究に活用しています。

また、マーケティングは学際的な研究領域であり、様々な分野の方法論が用いられているといわれています。決まった研究方法があるわけではなく、研究者にとっては、隣接する分野の様々な研究方法を援用する自由があるものの、方法論的な厳密さが問われるという問題もあります。研究課題を解決するための最適な手法を見つけるために、学際的な研究会や学会に積極的に参加し、常に視野を広げ、知識を深めていこうとしています。

Q 研究者の道を志されることとなったきっかけは?

振り返ってみますとと、学生の頃から勉強が好きでした。長年、退屈な受験勉強の日々が続きましたが、毎日寝る前に学習した知識を整理して吸収することで、大きな満足感を覚えました。研究者の道を意識し始めたのは、別の意味で勉強の楽しさが分かった大学院時代でした。自分の思い入れがある課題を自分で解決方法を決め、自分なりの答えを導くことがとても楽しいです。研究課題に取り組んでいく中で、少しずつ成果が出たらすごく達成感を感じます。その時から、研究を生涯の仕事にしていきたいと思っていました。私にとっては、人や社会にとって意義のある仕事をしながら、常に自分自身を豊かにすることが、研究職の最大の魅力です。

Q (最近金沢に来られたようですが、)研究環境として金沢の良い感じるところを教えてください。

今年の4月に赴任したばかりですが、日本に来る前から金沢のことは知っていました。 歴史と文化に富み、ヒューマニズムの豊かな街という印象でした。本学は市街地から少し離れた場所にあり、静かで落ち着いた環境で、研究するのに最適だと思います(通学が不便だと思う人がたくさんいるかと思いますが)。また、研究に専念できる時間を確保できることが、私にとってすごく魅力を感じます。新刊の書籍や論文を読む余裕があることがとても幸せです。学内では、研究交流会など研究に関する様々なイベントが充実されており、異分野の研究者の話を聞いて、良い刺激を受けています。

赴任してからまだ一年未満ですが、今の研究環境に満足しています。恵まれた研究環境と資源を活かして、質の高い研究成果を出していきたいと考えており、また、新しい研究成果を教育に還元することも目指しています。

Q マーケティングの分野で最近興味を深いと思われる研究テーマを教えてください。

最近では、マーケティングの分野において、顧客(消費者)をより深く理解することが、徐々に新しい研究の方向性になってきています。 これにより、顧客経験(customer experience)やカスタマー・エンゲージメント(customer engagement)などの新しい概念が生まれました。これらの新しい研究動向は、企業が管理・制御することが非常に難しい、顧客の日常生活やパーソナリティに焦点を当てています。

例えば、企業のマーケティング活動を顧客の日常生活の軌跡の視点からマッピングし、顧客の総合的な経験からマーケティング活動の有効性を評価するという一連の理論的・実証的研究が行われています。また、製品のコモディティ化が進んでいるといわれる中、企業は製品が使われる状況(文脈)を管理することで、顧客の経験を高め、その価値創造を促進することができるという考え方をもとにした、価値共創型のマーケティング研究も現れています。

Q 最後に、いま経済学を学んでいる学生に向けて、また、これから経済学を学びたいと考えている高校生に向けて、一言をお願いいたします。

私たちは日常的にさまざまな経済現象にさらされていますが、その背後には目に見えない多くの原理が働いています。大学で経済学、経営学、統計学などを体系的に学ぶことで、これらの現象や現象の間の関係をよりよく理解することができると思います。さらに、経済学の知識を身につけることで、現実世界の課題を科学的な方法で解決することにもつながっています。経済学の理論には、すぐに実用的な効果が得られないものもありますが、これらの基本的な理論を習得することで、世の中に対する見方が豊かになり、顕在化した事象の背後にある因果関係をより深く理解し、論理的に考える力を養うことができます。そんな目標をお持ちの方は、ぜひ金沢大学経済学類で充実した大学生活を送ってください。