1年間の派遣留学(フィンランド)
海外体験期間 | 国 | 主な活動 |
---|---|---|
2013年8月16日から2014年5月31日(秋・春の学期期間) | フィンランド | ユバスキュラ大学 留学 |
1.留学 に関心を持つようになるまで
私が初めて留学について考えたのは私が高校生の時でした。私には高校時代に留学を経験した友人が多くいるのですが、特にドイツに留学していた友人に最も大きな影響を受けたように思います。彼女は留学前と留学後で価値観が大きく変わっただけでなく、日本とドイツの二通りの考え方が出来るようになったと言っていました。ドイツ人の持つ意見の明確さ、そして日本人の持つ謙虚さ、それらを合わせて物事を考えられるようになったと言っていたのです。当時、優柔不断、人前で話すことが苦手な自分の性格にコンプレックスを抱いていた私はとても感銘を受け、留学に対して強い思いを抱くようになっていました。そして、金沢大学に入学し、派遣留学の存在を知った私は大学一年生の時から留学を強く希望していました。しかし、ご存知の通り、大学の派遣留学は高校までの留学とは異なります。単に語学を学ぶだけでなく、派遣先で「何を」学びたいのかが重要となってきます。私は大学二年生の応募までに自分はどの学業分野に強く興味を持っており、どこの国ならばそれについて学ぶことが出来るのかといったことを必死で考えました。その結果辿り着いたのがフィンランドのユバスキュラ大学でした。
私は経済学類の学生として、フィンランドの社会保障制度に関心を持っています。フィンランドは税金が高いことで有名ですが、日本の社会保障費がGDP全体の17%を占めるのに対し、30%ととても高い数値を示し、教育費や医療費が無料なだけでなく、老後の社会保険制度も充実した、暮らしやすく、安心感の覚えられる国となっています。一方で現在の日本は不安定な年金制度や消費税率をめぐって政治経済は混乱しているように思われます。そもそも、私は個人的にも社会保障制度に関心を持っていました。なぜなら、家が母子家庭で収入が少ないこともあり、私がアルバイトをして貯めたお金を授業料の足しにすることがあったからです。教育費が無料なフィンランドの福祉制度ならば、このようなことは起きなかったでしょう。このようなこともあり、私はフィンランドの社会体制に憧れを持ち、いち早くフィンランドのような充実した福祉制度が日本に取り入れられるべきだと感じていました。しかし、教育費や医療費が無料ということは国民にとても優しい福祉制度である一方で、フリーライダーや高い消費税率による自殺問題などを引き起こす可能性があります。そこで、私は果たして本当に北欧の福祉制度には負の側面が存在しないのかということをユバスキュラ大学の学生達と議論を交わしたり、地域の住民達から直接話を聞いたりして学びたく、フィンランドのユバスキュラ大学を選択しました。
2.留学準備
留学の応募をするまでに、まず行ったのが英語の学習でした。経済学類の学生であれば基本的に一年時にしか英語の授業は取らないと思いますが、私は継続して二年時にも履修していました。また、2012年春には滋賀県にあるミシガン州立大学連合日本センターで「国内留学」プログラムに参加してきました。国内留学プログラムとは二週間、ミシガン州から日本に勉強しに来ているアメリカ人留学生と寮生活を共にし、お互いの日本語、英語を高め合おうといったものです。朝から昼の15時まではTOEFLまたはTOEIC対策の授業をネイティブの先生が教えてくれます。寮に帰ってからはアメリカ人留学生と共に買い物したり、遊んだりという生活です。しかし、彼らはミシガン州立大学連合日本センターで単位を取得しなければならず、勉強に対する姿勢はそこに来ている日本人よりもはるかに高かったです。彼らの姿勢はとても私にとって刺激的でしたし、英語に対するモチベーションを常に高い状態で維持することが出来ました。また、国内留学で特に良かったと思うことは、彼らは日本語を勉強しているので、辞書を用いても分からないような言い回しを彼らに直接聞くことが出来たことです。ネイティヴスピーカーが話す自然な英語を学ぶことが出来るだけでなく、実際に英語にはない日本の言い回しがとても多いことを知ることが出来ました。それまで日本語で考え、それを訳して英語で話そうとしていた自分にはとても革新的なことでしたし、二週間でそのことを学べたのも国内留学ならではの学習スタイルのおかげです。
学内選考に通ってから、次の春までは英語の学習を続けていた以外ほとんど何もすることはありませんでした。春になると派遣留学先の大学から留学許可証が届き、オンライン申請や留学保険、VISAなど本格的な準備を始めました。まず、初めにしたことがオンライン申請です。オンライン申請の中で所属したい学部や学生寮を選びました。その後、保険とVISAの申し込みをしに、東京まで行き、保険証はその場で受け取り(インターネット上でも可能)、VISAが届くまでの3週間は再び何もすることがありませんでした。実際に、VISAが届いたのは7月の上旬ごろで、それから航空券の申し込み、寮費を一ヶ月分前払いしなければならなかったのでそれを支払って、留学の準備がほぼ完了したように思います。しかし、今挙げたこれらのことは誰もが「必ず」しなければならないことで、人によっては更にしなければならないことがある人もいます。私の場合は、パスポート、自動車免許が留学中に切れてしまうということでパスポート、自動車免許ともに5月に更新しに行きました。また留学中の奨学金の申し込みもしました。そして、国際キャッシュカード、クレジットカードも申請しました。どちらのカードも海外に行く上で必須です。海外送金は非常に高く日本円で6、7000円ほどかかる場合がありますが、国際キャッシュカードを使った場合手数料0円で送金、入金を行うことが出来ます。クレジットカードについては、為替レートが現金を使う場合よりも安く、現金に困った時に役立ちます。
そして、留学の準備もすべて終わり、8月中旬からフィンランドに滞在しています。すでに12月中旬と丁度4か月経過しました。
3.フィンランドに到着して
まず、フィンランドに来て最初に思ったことは日本よりも寒いということです。8月ですら気温は25度あたりでとても涼しく春、秋ぐらいの気候でした。夜になると15度ぐらいまで下がり、8月なのにも関わらず5度あたりまで下がったこともあります。また、涼しいのと同時に一日中明るいことにも気が付きました。6月中旬が最も日照時間が長くなるらしいですが、8月でも22時あたりまで太陽がしっかりと出ていました。寝る時間には困りましたが、やはり太陽を長く見ることが出来るというのはとても気持ちが良かったです。しかし、月日が経つとともに気温は低く、日照時間は短くなっていきます。今では時にはマイナス10度まで下がり、日照時間も朝の10時から昼の15時あたりまでと非常に短いです。12月に入ってすぐの頃は寒さにも、暗さにも慣れることが出来ず、鬱状態に陥りましたが、今では寒さにも、暗さにも慣れ、とても充実した日々を過ごしています。
授業を履修するにあたって、金沢大学との大きな違いは、時間割のシステムがかなり異なるということです。まず、一学期を通しての授業というのはほぼ存在せず、授業によっては5回で終わったり、週に3回合計30回で終わったりなど様々なのでテストの時期も異なります。また、単位取得の方法として通常は金沢大学のような講義試験を行いますが、授業によってはブックイグザムと言って、自分で200頁、300頁なる本を学習し、教授に個人的に出題された問題を解いて単位を取得する方法もあります。試験を好きな時に受けられる反面、自己学習を続けるのは非常に大変そうだったので私はブックイグザム形式の授業は履修しませんでした。また、授業によって終わる時期が違うというこのシステムならではのことだと思いますが、学期中に履修登録、履修削除を行うことが出来ます。授業には履修登録・削除期間が存在し、それを超えて履修するのは難しいですが、それ以外であれば授業を始めたい時に始めることが出来ます。金沢大学のように、一度履修登録をしてしまえば各授業が15回定期的にあるというのは今思えばとても「楽」だったような気がします。しかし、ユバスキュラ大学の授業システムは毎週、毎月違う時間割になってしまったりするものの、履修登録・削除が自由に出来てとても柔軟性を感じました。
第三に、私自身の授業・学習について、私は今期に英語、フィンランド語、国際マーケティング、異文化コミュニケーション概論、フィンランドの文化・社会、国際問題といった様々な授業を履修していました。英語は日本で勉強していたとはいえ、こちらで授業についていくのは非常に難しいです。ただ生活するだけとは異なり、各授業で専門的な単語が多々出てきます。専門科目を理解するのに学術英語を学ぶことは必須となってきます。また、こちらの英語の授業はディスカッション、プレゼンテーションに重点を置いていてとても新鮮ですし、なにより授業中に話すことが出来るので「楽しく」授業を過ごすことが出来ます。もちろん、リーディング、ライティングも勉強しますが、こちらの英語学習は自己主張をする機会を大切にしているように思います。次に、フィンランド語ですが、実はかなり難しかったので履修をキャンセルしました。発音やアルファベットの読み方は日本に近いです。しかし、文法が日本語とも英語ともかなり異なり、6つの主語(私、あなた、彼/彼女、私たち、あなたたち、彼ら/彼女ら)によって動詞が活用したり、否定語が活用したりします。また、前置詞が存在せず、〜に、〜を、〜でといった単語が名詞の語尾に来るのですが、これも規則性があり、とても英語と両立して学べる言語ではありませんでした。今は言語だけ言えば英語の勉強に重点を置いているので、来期に余裕があれば再び履修するかもしれません。そして、言語以外の専門科目についてですが、国際マーケティング、異文化コミュニケーションの授業は他国の価値観や慣習、ステレオタイプを学ぶのに大きく役立ちました。国際マーケティングではマーケティングの理論を学ぶというよりも、他国に企業進出する時にまず、その国の価値観や慣習などを知らなければならないということを学びました。例えば、日本で良い意味のブランド名、写真が他の国でも良い意味を持つとは限りません。性的な広告もアジアでは流行りにくいそうです。金沢大学で履修していたマーケティングの授業では多くの理論を教わり、こちらの授業ではそれらを海外で応用する時まずどのようなことに気を付けなければならないのかといったことを学べたのでマーケティングの知識に大きく幅を持たせることが出来ました。異文化コミュニケーション概論の授業では異なる価値観・慣習を持つ人と直面した時にどのような対処を取ればよいのか、カルチャーショックとはアイデンティティとは何かなどを教えてくれる授業でした。実際に、多くの留学生が履修しており、海外で暮らす学生が他国の価値観を考える良い機会になると思います。また、他国の人が日本に対してどのようなステレオタイプを持っているのかなどといったことは非常に聞いていて面白かったです。そして、フィンランドの文化・社会、国際問題といったこれらの授業は私の留学動機や金沢大学で所属しているゼミを意識して履修しました。まず、フィンランドの文化・社会の授業ではフィンランド独立から女性地位の確立、移民、労働市場など様々な観点でフィンランドを学ぶことが出来ます。フィンランドは世界で最も男女平等な国の一つとして知られています。しかし、それでも、給料の違いは依然として存在し、男性のもらう給料の方が5〜10%ほど高くなっています。フリーライダーの存在といった社会保障問題に関しては公立の病院では最低限の治療しか行わず、投薬も基本的に行いません。教育については、今は授業料が無料ですが、始めに授業料を払ってもらいその後単位取得に応じて授業料を返済するといった方式に変える案も出ているそうです。他にも失業問題や収入の脱平等化、大企業起業の減少などフィンランドも多くの問題に直面していることが分かりました。国際問題の授業では食糧問題やデジタルディバイド、24時間営業問題、保険問題など、この授業も多くの視点を通して今叫ばれている国際問題を学ぶことが出来ました。私は金沢大学で世界経済論ゼミに所属しているのですが、3年前期の始めに「貧乏人の経済学」という本を授業で読みました。その本でも保健衛生や食糧、教育、保険などの観点を通して貧困問題をどのように捉えるのかを学んだのですが、項目によっては納得出来る部分もありましたし、納得出来ない部分もありました。自分に出来ることは無いのではないかと感じた部分もありましたし、問題によっては解決されることはないのではないかと思うこともありました。今思うことは、もっと多くの観点から国際問題、貧困問題を学びたく、また新たに一つ一つの問題に対する解決策を探しながら勉強しています。来期でも他の教授によるこのような形の授業が開講されているので再び履修して知識を深めたいと思います。
最後に、フィンランドでの生活はとても充実しています。寒さ、暗さで鬱になることもありましたし、物価は基本的に日本より高く贅沢も出来ませんが、日本より「穏やかに」暮らせている気がします。レストランで食べる、高価な物を買うといったこともしません。自炊をしたり、誰かのフラットで食べたりしています。しかし、こちらに来るまで自炊をしなかった私ですが今では自炊が出来るようになって、他の留学生に料理を振る舞うほどで、インターナショナルディナーを週に一回はして料理を楽しんでいます。また、こちらでは学生がお金がないのは当たり前という意識が日本よりはるかに根付いている気がします。学生は基本的にバイトをせず、奨学金やサマージョブで貯めたお金を節約しながら生活しており、贅沢をしなくても息苦しさを感じない生活がこちらには存在しています。それだけでなく、フィンランドは自然が豊かで夏はベリーを摘みに森に行ったり、湖で泳いだり、一方冬はウィンタースポーツをしたり、サウナの後に雪に飛び込んだりと自然を大いに有効活用しながら過ごします。以前は金沢も自然が多い都市だと思っていましたが、自然を体験するというのは見るだけとはまた違うものだなとも気が付きました。
4か月経って思うこととこれから思うことはまた変わっていくと思いますが、少なくともフィンランドはとても快適な場所です。勉強ももちろんそうですが、友達と遊ぶといった面を含めても最高の場所なのではないでしょうか。(R.M.3年生)