卒業生からのメッセージ

活躍する経済学部(学類)卒業生

髙野裕之さん

写真1:髙野裕之さん 2003年3月に経済学類を卒業され、現在三菱東京UFJ銀行にお勤めの髙野裕之さんに金沢大学での学生生活を中心にいろいろとお話を伺いました。髙野さんは、大学卒業後、現在のお勤め先で支店窓口や外国為替、中小企業法人営業などを経て、証券会社に出向の後、現在は銀行で大企業法人営業をご担当です。

大学入学から就職まで

 高校時代から、大きなお金を動かすということに漠然とした憧れを持っていて、そのような世界に身を投じて、そのお金でどのように世の中が動いていくのかを見てみたいという思いがありました。入学してからは、いろいろなことに興味を持っていましたので、特に銀行に就職するということを常に意識していたわけではありませんでした。
 実際に就職活動を始めてからは、その当時盛んに行われていた企業再生などに興味を持っていました。企業再生や、特定の分野に限らない様々な分野の経済活動にかかわることのできる仕事であるということもあって、入学当時の銀行に対する思いみたいなものがよみがえってきて、銀行への就職を考えました。しかし、実際にどのような仕事なのかということについては理解していませんでした(笑)。とにかく、漠然とした憧れがありました。地方銀行か都市銀行かという選択については、フィールドの広さという意味で都市銀行のほうが多くのチャンスが転がっているだろう、ということで都市銀行を選択しました。

学生生活やゼミについて

 澤田幹先生の経営管理論ゼミに所属していましたが、澤田先生のゼミでは経営学を学ぶという点についての縛りはありましたが、分野などについては自由に学ぶことができるという先生からのお話もありましたのでこのゼミを選択しました。卒業論文のテーマは「北陸新幹線開業の経済効果について」でした。このテーマ選択からもわかると思いますが、興味関心の幅が非常に広かったんです。本当に自由にやらせてもらいました。写真2:澤田幹先生・高野裕之さん

 私にとっては、ゼミの存在自体が今でも大きな意味を持っています。各々が各々の役割を果たしてゼミとして何か一つのものを作るという作業、あるいは個人個人が卒業論文に向けて論文を作成し発表し意見をするということ、こういったことが今の仕事とほとんど直結しています。チームワークで作る仕事もあるし、自分一人で完結しなければならない仕事もある。その時に上司や後輩あるいはプロダクトオフィスの人たちの意見を聞きながら物を作るということが良くありますが、ゼミ活動はそのスタートだと思います。社会人生活を送るうえでの必要となる基礎を身に着ける集団ですね。一方で家族のような集団でもありますね。ゼミのメンバーと喧嘩したりすることもありましたが、今でも先輩や後輩とはつながりがあって、戻っていける場所です。実際にほぼ毎年同窓会なんかもやっています。年齢も一回り違うような人も入ってきますから、同世代の横のつながりだけではなく縦のつながりがあるというのも魅力です。

学生時代にやっておけばよかったことや社会で求められること

 英語はやっておけばよかったと思います。我々の会社だけではなく、日本の大企業はほとんどそうだと思いますが、日本の市場での収益のパイがこれ以上大きくならないような状況の中で、成長戦略を描くには海外に出なければならない。実際に私が勤める会社でも海外収益の割合を増やそうとしています。ここ1-2年で大企業法人営業や海外業務に携わる人材は一定のTOEICスコアを取らなければいけないという考え方が急速に広まっていますね。年齢が上写真3:髙野裕之さんがってから仕事用という形で英語を勉強するというのは大変ですから、楽しみながら大学時代に英語を身に着けておくことはお勧めします。
 英語以外では、私は営業の仕事をしているので、それに関連したことになりますが、あきらめないという姿勢が必要だと思います。営業のやり方に一つの答えのようなものはないと思いますが、あきらめない姿勢というものは顧客も上司も見ていると思います。またコミュニケーション能力も重要だと思います。コミュニケーション能力を養うことに役に立つのは、遊ぶことやゼミ活動が重要になると思います。先程も申しあげたように、ゼミ活動というのは社会生活が凝縮されたような集団で、そこで基礎的なコミュニケーション技術を学ぶことができるのではないかと思います。

金沢大学出身であることでよかったことは何だと思いますか?

 企業に学閥があるんじゃないのか、と思われる方もいるかもしれませんが、私の勤めている会社ではそういったものをほとんど感じません。ですから出身大学としてはマイノリティかもしれませんが、そのことが仕事に影響しているということはありませんし、実際に重要な仕事も任せてもらっています。私自身は千葉県出身で、金沢大学にやってきましたが、金沢という土地で学びながら4年間過ごすことができたということが非常に良かったですね。金沢には美的センスを持った方が多くいるんだなということが東京に行って改めてわかりました。そのような土地で『センス』みたいなものも磨かれたのではないかと思います。また、金沢の人は金大生に対してやさしい方が多いというのも印象に残っています。「金大生です」と言えば、町の人にもいろいろ良くしてもらってかなり楽しく過ごすことができました。都心の大学に通っていた人にそのことを話すと非常にうらやましがられますね。
 大学を偏差値で選ぶのでなく、自分を孤独で、まったく知らない世界に身を置いてみる。そして同時に高度なことを学ぶ。金沢大学は、そのような学生生活を送るには非常に適した場所じゃないかと思います。

岡野陽介さん(2009年3月卒業)

経済学・経営学の知識を基礎に法曹界を目指す

 本学経済学部を2009年に卒業された岡野陽介さんが、本年の司法試験に合格されました。司法修習直前のお忙しい中、岡野さんに角間キャンパスにて在学時の指導教員の吉居准教授と御対談いただきました。岡野さんの経済学部での生活、またなぜ司法試験に挑んだのか、経済学部での経験が司法試験にどのように役立ったか、などについて語って頂きました。これから経済学類を目指そうと考えている方にも参考になることがあると思います。なお、岡野さんの在籍当時は現在の学類・学域制度の施行以前の学部制度でしたので、以下、岡野さんの在籍当時については「学部」と表現しますが、提供されている講義科目などは現在のものとほぼ同じです。

吉居史子准教授(以下、吉居):陽介、こんにちは。司法試験合格おめでとう。

岡野陽介さん(以下、岡野):ありがとうございます。

写真1:岡野陽介さん

吉居:今日は金沢大学で過ごした日々のこと、またそれが今の陽介にどう生きているのかについてお話を聞かせてもらいたいと思います。そもそも経済学部に入ったにもかかわらず、検察官を目指して司法試験を受験したのはどうして?

岡野:まず経済学部に入った理由は、高校を卒業する段階では、将来自分が何をしたいのかを見つけられていなかったので、経済学部で広く社会のことを知って、自分の適性や将来やりたいことを見つけられたらいいなと思ったことです。入学した後は、経済学部の講義はもちろんですが、単位の互換制度を使って法学部の科目なども履修しながら自分には何が向いているのかを考えていました。その中で、経営学関係の科目に会社法の話などがたびたび出てきて、徐々に法律の世界の仕事はどんなものなのかなということを考え始めました。そして法曹の仕事について調べていくうちに、自分自身が責任を全うできる検察官という仕事が理想の職業だと思うようになって、3年生の時にその道に進もうと決心しました。

吉居:3年生の夏に初めて検察官になるという夢を聞いたと記憶しているんだけど、今になって不思議に思うのは、留年はしてしまうかもしれないけど、金沢大学の転学部の制度を使ってどうして法学部に転学部しなかったの?私としては、陽介がうちのゼミにいてくれて本当に嬉しかったんだけど。

写真2:吉居史子准教授

岡野:法律については大学院に入ってから勉強すればいいんじゃないかと思っていました。法科大学院のことを調べたときに、その理念がいろいろなバックグラウンドをもっている人を法曹界に送り出すというものだったので、経済学部を卒業して経済学のバックグラウンドをもって法曹界に入ればオンリー・ワンの検察官になれるんじゃないかと思ったのです。転学部をするよりも経済学部を卒業して法科大学院に行くほうが価値が高いだろうと思ったのが、大きな理由です。もちろん吉居先生のゼミが楽しかったので、残りたかったというのも大きな理由です(笑)。

吉居:ありがとう(笑)。いままで司法試験の勉強で忙しかったので振り返る暇がなかったと思うけど、転学部せずに経済学部を卒業したという決断は正しかったと現時点で実感はある?

岡野:それは強く感じています。理由はいくつかありますが、まずは卒業研究や共同研究といったゼミでの活動をやりきることで得た力は、司法試験はもちろんですが、自分が考えたことを文字にするという論文の基礎力となっていて、生活の中で非常に生きています。他にも講義で学んだ財務諸表の知識なども会社法とかを扱う上で、法学のみを学んできた人たちとは違って、理解が深まるということはありました。

吉居:将来、東京地検特捜部で巨悪を暴く時に、財務諸表を読めるというのは生きてくるんだね(笑)

岡野:実際に、検察官になるためには、財務諸表は読めるようにしておけということは検察官の方に言われていました。でも僕は既にやっていたので、その点は全然苦労していませんね。

吉居:なるほどね。

岡野:法律家は、法律があって、そのルールを守れというスタンスに立つだけになってしまいがちですが、僕自身は実社会には出ていないですが、経営学の授業で、経営者は自分たちの企業の価値や希望を最優先事項にして行動するということを学んでいますので、そのような意味では、法律家の立場というだけではなく相手側の立場に立った考え方ができるのではないかと思います。

吉居:陽介の場合は、司法試験を受けることを決めた上で経済学や経営学の講義を受けていたから、また別の形の理解ができてそれが今に生きているということね?

岡野:はい、そうですね。

吉居:大学に入学する時点で、広く社会のことを知りたいという出発点は間違っていなかったということだね。

岡野:はい、そう思います。

写真3:岡野陽介さん・吉居史子准教授

吉居:検察官というと、殺人犯を相手にするといったイメージだけれども、経済事犯もたくさん扱いますもんね。さきほど、論文の力のことを言っていたけれど、吉居ゼミでは論文に関する細かい掟を作って、これはゼミのコーランだからっていつも言っているけれども、陽介よりも何年か前の代のゼミ卒業生に、こんな掟は卒業したら何の役にも立たないのに何故ここまでやらなきゃならないのかって言われたことがあるんです。それに対して私は、企業に入って企画書や報告書などを書くにしても、どうやって論理的かつ説得的に相手に対して伝えるかというのは非常に大事な力で、その土台になるのがこの論文の書き方の掟なんだよ、と言ったんです。私は、毎年論文指導に非常に長い時間をかけてるんだけど、実際にそれがみんなの卒業後、どのように生きているのか、卒業生と話したことがなかったので、今回、陽介から司法試験の論文試験にまでもゼミで身につけた論文を書く力が生きたので、そのぶん判例や法律を勉強する時間を確保できたということを聞かせてもらって、私も教員冥利に尽きます。

岡野:論文を書く力以外にも、ゼミでたくさんの議論をしたことが自分の役に立っていると思います。ゼミでは、先生が「あたりまえ」、「みんなの常識」ということについてもよく質問をされて、そこからいろいろ考え、議論するという作業をずっとやってきました。そこで、自分の頭で考える力が身についたと思います。そういった力は法律でも重要だと思います。

吉居:具体的にどういう点で?

岡野:ええ、起こったことに今まで通り対処するのは誰でもできますが、実際は、これまで起こったことのない新しい事象が常に起こってくるわけで、それに対してルールをどのように適用したらいいのかということは、状況に応じて考えていかなければならないわけです。ゼミでの国際政治経済に関する知識は直接役に立っていないにしても、ゼミの議論で養われた考える力や思考プロセスは、すべてのものに通じてくると思います。

吉居:皆がア・プリオリに想定している常識からスタートしたのでは、結局、他の人と同じ結果にしか至らないし、皆が気づくことにしか気づかない。だから、当たり前とされている前提をひっくり返すことからまず始めて、オリジナルな研究や思考法を身に着けてほしいというのが私のゼミの趣旨ですけど、前に、他のある卒業生が就職活動で圧迫面接を受けたことがあって、吉居先生のゼミでの突っ込みの方がよっぽど厳しかったって言ってた(笑)でも、それが司法試験にまで生きてくるとは思ってなかった。

岡野:ゼミでは吉居先生から常に突っ込まれるので、先生から言われることを想定して、自分の主張をいかに守るかを考えていました。反論を考えながら議論をするということは、説得的に物事を述べる上で、すごく重要な力だと思います。その力をゼミで鍛えられたかなと思います。

吉居:それは嬉しいことを聞かせてもらいました。学生時代の思い出は他に何かありますか?

岡野:ひたすら楽しんでたんですけど(笑)。ただ、友達と集まって飲むと、よく夜中には普段からは考えられないような熱い話をしたりしました。僕は友達に恵まれていたのかもしれませんが、税理士や会計士を目指している友達もいたので、それぞれの道を目指す友達とそんな話をして、刺激しあいながら切磋琢磨して過ごすことができました。

吉居:陽介、本当にいつも楽しそうだったよね。金沢大学の経済学部は、比較的まじめに自分の将来を考えて資格試験に挑戦するとか、堅実な生活をしている学生が多いという印象だけど、まさか司法試験を受ける人まで出てくるとは思ってなかった(笑)

写真4:岡野陽介さん・吉居史子准教授

岡野:まあ、目標は高いほうがいいかなと(笑)経済学部に入学して直後、新入生の合宿があったんですけど、その時に知り合った経済学部の友達で集まることが多かったですね。

吉居:経済学部の最初の合宿がよかったんだね。

岡野:はい。学部で知り合った友達の方が多いですね。

吉居:個々の学生の交友関係はあまり知らないけど、サークル関係の友達のほうが多いかと思ってた。そうじゃないんだね。

岡野:特殊かどうかはわからないですけど、僕の場合はそうでしたね。外国語文献研究(当時開講)という講義で知り合った友達なんかもいましたね。

吉居:3年生のゼミ選択の時、「国際公共経済論」なんていう司法試験にまったく関係ないゼミを、経済学部のたくさんあるゼミの中からどうして選んだの?

岡野:1年生の時に吉居先生を知って、吉居先生ってすごいなと思って、2年生の時にも吉居先生の講義を受講してやはり楽しいなと。国際政治とかも興味がありましたし、知らない世界を知ることができる楽しさっていうのを感じることができました。吉居先生ってすごいな、と思ってこういう先生に教えてもらったら先生に近づけるんじゃないのかと思ってゼミを選択しました。先生に面と向かって話すのは恥ずかしいんですけど。

吉居:私も照れます(笑)東京のロー・スクールでの3年間と金沢大学の経済学部で過ごした4年間と比べるとどう?

岡野:東京は情報や人との出会いが非常に多いというのは楽しい面でもありますけど、そういった環境にいると、他の楽しい世界や楽な世界が見えてしまって、ぶれてしまうと思います。金沢大学に行ってその後に東京に行ったのが良かったなと思うのは、いきなり東京に行っていたら自分を見つめる時間がなく流れに任せて過ごしてしまったのではないかと思います。金沢大学は良い意味で都心ではないですから、自分について考える時間をもつことができました。自分を固めた上で東京に行ったので、東京にある多くの情報の中から自分に必要な情報を取捨選択して生活できたことが良かったと思います。

吉居:地方大学の全てが同じ風土かはわからないけれども、金沢って地方ではあるけれど田舎ではない。東京ほど誘惑に満ちているわけではない。北陸の気風かもしれないけれど、みんな地に足がついている印象があるよね。金沢っていう街自体も金沢大学の学生に対して暖かいし、その中で足場を固めることができたのは良かったかもしれないね。

岡野:本当にそうですね。良くも悪くも、一定の質が保たれていて、ばらつきがないので、自分のやる気を阻害するような要因が金沢大学にはなくて、雰囲気が本当に良かったですね。あと、やはり何よりゼミでの少数で議論した経験というのは大きいですね。あれは非常に良かったです。

吉居:経済学類ではゼミナール大会を毎年やっているけど、最初はおっかなびっくりだったゼミ生が、自分たちの共同研究を発表しなければならないということで、必死になって泊り込んで勉強し、手分けして作業して、苦労した末に本番でぴしっと発表する。あのプロセスは非常に良い経験になっているんじゃないかなと思うけど。

岡野:そうですね。一つの同じ目標をもってみんなで取り組むというのは非常に良い経験でしたね。半年以上一緒のゼミでやってきても、お互い意見が食い違うことがあって、いかにその違いをまとめることが難しいかを経験することができました。でもそれをまとめたときの達成感は大きいですし、その時の友達とは今でもそのときの話をしますし、本当に代え難い経験でしたね。

吉居:後輩たちに何かメッセージをもらえますか。

岡野:大学は自分の知的好奇心を満たすのに絶好のチャンスの場で、経済学部の必修科目だけを取っていこうと考えるのではなく、他学類との単位の互換性も高いから自分の興味ある科目を幅広く履修したり、いろんな先生の話を聞いたりした方が良いと思います。すぐ自分に得があることに飛びつきたくなる気持ちはわかるけど、自分でチャンスを潰してしまわずに、いろいろなことに手を伸ばしたほうが良いと思います。金沢大学は地方国立大学の中でも、手を伸ばせば色んなものを手に入れることのできる大学なので、その環境を理解して挑戦してもらえたらいいと思います。それは将来に何をするにしても、振り返ればその挑戦が今につながっているな、と思えると思います。

写真5:岡野陽介さん

吉居:経済学類の学生は、いわゆる「近頃の若者」というイメージとは違って、真面目な学生が集まっているなと感じます。そういった学生が集まる中で、自分の進む道を考えていろんなチャンスを求めて活動できるというのが金沢大学経済学類の強みかなと思います。それを全て活かして今の状況を実現したのが陽介だと思います。法学部ではなく経済学部を選んだことも、まず金沢大学で学んでから東京のロー・スクールに進んだことも、陽介の折々の選択が全て検察官になるという陽介の夢を実現させるために正しい選択だった、というのは我々にとっても非常に嬉しいお話でした。今日は本当にどうもありがとう。これからもがんばってください。

岡野:ありがとうございました。

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